鬼城句集 秋之部 月/十六夜
月 とく見よや門前月の出るところ
庵の窓にまだ月のある二十日かな
小百姓の醉うってねむるや月の秋
月出でゝつんぼう草も眺めかな
[やぶちゃん注:「つんぼう草」キク目キク科タンポポ亜科タンポポ連アキノノゲシ
Lactuca indica の異名で聾草(つんぼぐさ)のこと。タンポポの綿毛を小さくしたような種子がタンポポ同様、耳に入ると聾になるという迷信による。]
名月や海につき出る利根の水
月の戸やありあり見ゆる白馬經
[やぶちゃん注:「ありあり」の後半は底本では踊り字「〱」。「白馬經」享保一一(一七二六)年刊の俳諧作法書「芭蕉翁廿五箇条」。芭蕉撰とされるが各務支考の偽作疑惑が濃厚。蕉風俳諧の付合(つけあい)作法を説いたもの。「貞享式」とも呼ぶ。]
飼猿や巣箱を出でゝ月に居る
二三尺月に吹きあげる吹井かな
山月や影法師飛んで谷の底
十六夜 甥の僧とさみしう酌みぬ十六夜
十六夜ひとりで飮んで醉ひにけり
[やぶちゃん注:前句の組句になってこそ面白い句である。]
月さして古蚊帳さむし十六夜