『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(6)
游江島 石作貞
誰道三山不可尋。
仙遊偶唱歩虛吟。
雨龍將起雲籠洞。
羽客欲來風満林。
天女琵琶懷月色。
梵王臺殿聽潮音。
無因海若襄陵力。
一叩神閽蕩碧岑。
[やぶちゃん注:作者は石作駒石(いしづくりくせき 元文五(一七四〇)年~寛政八(一七九六)年)。貞は名。儒学者で木曽代官山村蘇門家臣で家老。江戸の漢学者南宮大湫(なんぐうたいしゅう)門人。七句目は訓点に従わずに読んだ。
江の島に游ぶ 石作貞
誰れか道(い)ふ 三山尋ぬべからずと
仙遊して 偶々 唱歩虛吟す
雨龍 將に起たんとして 雲 洞に籠り
羽客 來たらんと欲して 風 林に満つ
天女が琵琶は 月色を懷き
梵王が臺殿は 潮音を聽く
因(よ)る無し 海若(かいじやく) 陵を襄(はら)ふの力
一(いつ)に神閽(しんこん)を叩(たた)きて 碧岑(へきじん)に蕩(たう)す
「三山」中国神話上の蓬莱・方丈・瀛洲の三つの仙山。
「海若」海の神。海神。わたつみ。この句、かく訓読してみたものの、正直、意味が分からない。識者の御教授を乞うものである。
「神閽」本来は門を守る神の謂いで、「閽神(かどのかみ)」「矢大臣・矢大神(やだいじん)」とも言い、神社の随身門の左右に安置されている随身の装束をした二神像の俗称(特に向かって左方の弓矢を持つ神像)を指すが、ここは「叩」とあるので、そこから洒落た、店先で腰掛けて酒を飲ませる店、居酒屋のことであろう(居酒屋の前で空樽に腰掛けて酒を飲むさまを閽神に擬えたか)。
「碧岑」緑の峰。国立国会図書館の近代デジタルライブラリーの「相模國風土記」の「藝文部」では「岑」を「岺」とするが、これは「岑」の異体字。]
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