蛇行する蝶 大手拓次
蛇行する蝶
月(つき)しろをながして 人人(ひとびと)のたましひをとむらふ
はてしなくひろがる 冥闇(めいあん)の肋骨(あばらぼね)に
うねうねと ゐざりよる毒氣(どくき)の花のなまめかしさ、
あたまを三角(かく)にうちのめして
黑い旗をたてようとする くるしい癡笑(ちせう)のかげに
わたしは 大翅翼(おほばね)の蝶(てふ)のやうに ひらひらとうごめいた。
[やぶちゃん注:「肋骨(あばらぼね)」のルビの「ば」は底本では脱字で空白。一般通念で補訂した(後発の諸本は本詩をどれも引かない)。]