鬼城句集 秋之部 崩簗/放生会
崩簗 赤犬のひたひたと飮むや崩簗
[やぶちゃん注:「崩簗」晩秋の季語。簗は河川の両岸又は片岸から列状に杭や石などを敷設して水流を堰き止めて流水に導かれてきた魚類を最後の流路で塞いで捕獲する漁具や仕掛けで、この場合、秋も深まって使われなくなった、落ち鮎を捕らえるのに設けられてあった下(くだ)り簗が、風雨にさらされ、押し流されたりして崩れてしまった状態をいう語。ものさびた侘びしさを既にして顕現する優れた季語と言えよう。]
放生會 放生會二羽の雀にお經かな
[やぶちゃん注:「放生會」「はうじやうゑ(ほうじょうえ)」は供養のために事前に捕らえてある魚や鳥獣を池や野に放してやる法会。殺生戒に基づくもので奈良時代より行われ、神仏習合によって神道にも取り入れられている。収穫祭・感謝祭の意味も含め、春又は秋に全国の寺院や宇佐神宮(大分県宇佐市)を初めとする全国の八幡社で催される。正確には八幡社では陰暦八月十五日の祭祀とされ、特に京都の石清水八幡宮や福岡の筥崎宮(ここでは「ほうじょうや」と呼ぶ)が有名。典拠としては「金光明最勝王経」の「長者子流水品」に釈迦仏の前世であった流水(るすい)長者が大きな池で水が涸渇して死にかけた無数の魚たちを助けて説法をして放生したところ、魚たちが三十三天に転生して流水長者に感謝報恩したという本生譚が載り、「梵網経」にも同種の趣意因縁が説かれている。かつては寺社の近隣の河川で橋番などが副業として日常的に行われていた商売で、亀屋から客が買って川に放した亀をその亀屋が再び捕獲してまた新たな客に売るという商売としても行われていた。現在でも台湾・タイ・インドでは放ち亀屋や放ち鳥屋といった商売が寺院の参道で盛んに店を開いている(ここまでは主にウィキの「放生会」を参考にした。昔、タイの寺院の参道で雀や鳩のそれを実見したが、当時のガイドによれば鳩はそのまま売り手の主人の鳩小屋に戻って呉れるので一番手間いらずとのことであったが、雀も飼い馴らしてあってやはり餌を播くと戻ってくるのだと言っていた)。これは放ち雀であるが、江戸の風物では放ち亀・放ち泥鰌・放ち鰻(屋台で糸で亀を吊るして売ったり、桶の中に亀や泥鰌やめそ鰻(鰻の幼魚)を桶に入れて売った)・放ち鳥(本邦では専ら句にある雀を複数の鳥籠に入れたものを天秤棒で前後に担いで売り歩いた)。]