我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴らす 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴らす
霜に更ける冬の夜、遲く更けた燈火の下で書き物などしてゐるのだらう。壁一重の隣家で、夜通し鍋など洗つてゐる音がしてゐる。寒夜の凍つたやうな感じと、主觀の侘しい心境がよく現れて居る。「我れを厭ふ」といふので、平常隣家と仲の良くないことが解り、日常生活の背景がくつきりと浮き出して居る。裏町の長屋住ひをしてゐた蕪村。近所への人づきあひもせずに、夜遲くまで書物をしてゐた蕪村。冬の寒夜に火桶を抱へて、人生の寂寥と貧困とを悲しんで居た蕪村。さびしい孤獨の詩人夜半亭蕪村の全貌が、目に見えるやうに浮んで來る俳句である。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「冬の部」より。]
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