日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第二章 日光への旅 8 按摩初体験
四角い箱の形をした、恐ろしく大きな緑色の蚊帳(かや)が四隅からつられた。その大きさたるや我々がその内に立つことが出来る位で、殆ど部屋一杯にひろがった。枕というは黒板(こくばん)ふき位の大きさの、蕎麦殻(そばがら)をつめ込んだ小さな袋である。これが高さ三インチの長細い木箱の上にのっている。枕かけというのは柔かな紙片を例の袋に結びつけたものである。その日の旅で身体の節が硬くなったような気がした私は按摩(あんま)、即ちマッサージ師を呼びむかえた。彼は深い痘痕(あばた)を持つ、盲目の老人であった。先ず私の横に膝をつき、さて一方の脚を一種の戦慄的な運動でつまんだり撫でたりし始めた。彼は私の膝蓋骨を数回前後に動かし、この震動的な(こ)ねるような動作を背中、肩胛骨(けんこうこつ)、首筋と続けて行い、横腹まで捏ねようとしたが、これ丈は擽(くすぐ)ったくってこらえ切れなかつた。とにかく按摩術は大きに私の身体を楽にした。そして三十分間もかかったこの奉仕に対して、彼はたった四セント半をとるのであった。
[やぶちゃん注:「三インチ」7・6センチメートル。]
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