霧・ワルツ・ぎんがみ――秋冷羌笛賦 七首 朝騎(あさのり) 中島敦
(以下七首 朝騎(あさのり))
水莖の岡のあしたの鋪道(しきみち)を外國婦人(とつくにをみな)馬に騎(の)り來る
[やぶちゃん注:「水莖」「みづくき(みずくき)」は「岡」の枕詞。]
朝を騎(の)る英吉利女(をみな)頰の上の丹色(にいろ)しるしも白き息吐く
かの騎(の)る驊騮(くわりう)の駒か朝日子の射しくるなべに嘶えたりけり
[やぶちゃん注:「驊騮」周の穆(ぼく)王が天下巡幸に用いた一日千里を走るという駿馬の名。後に転じて名馬のことを指すようになった。]
みはろかす港に朝日さしそめぬ丘行く駒の影は長しも
革衣(かはごろも)益良雄めけど胸の邊(へ)コスモスの花插しにけらずや
新しき拍車鳴るよとわが聞けばすなはち馬はトロットに移る
[やぶちゃん注:「トロット」“trot”は馬術用語で跑足(だくあし)・早足(はやあし)・速歩のこと。“walk”(ウォーク・並足)と“canter”(キャンター/カンター・速足・駆歩)との中間の歩調。因みにキャンターの上が全力疾走の“galop”(ギャロップ・早駆け・襲歩)。]
鹿毛駒の尾を振り去りしそきへより鋪道(ほだう)斜めに朝日さしくる
[やぶちゃん注:「鹿毛」これで「かげ」と読む。茶褐色の最も一般的に見られる馬の毛色。
「そきへ」「退き方」で遠く離れた方。果て。上代語。]

