秋風や酒肆に詩うたふ漁者樵者 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
秋風や酒肆に詩うたふ漁者樵者
街道筋の居酒屋などに見る、場末風景の侘しげな秋思である。これらの句で、蕪村は特に「酒肆」とか「詩」とかの言葉を用ひ、漢詩風に意匠することを好んで居る。しかしその意圖は、支那の風物をイメーヂさせるためではなくして、或る氣品の高い純粹詩感を、意識的に力強く出すためである。例へばこの句の場合で、「酒屋」とか「謠(うた)」とかいふ言葉を使へば、句の情趣が現實的の寫生になつて、句のモチーフである秋風落寞の強い詩的感銘が弱つて來る。この句は「酒肆に詩うたふ」によつて、如何いかにも秋風に長嘯するやうな感じをあたへ、詩としての純粹感銘をもち得るのである。子規一派の俳人が解した如く、蕪村は決して寫生主義者ではないのである。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「秋の部」より。]
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