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2013/09/09

生物學講話 丘淺次郎 第九章 生殖の方法 三 單爲生殖(2) ミジンコの例


Mijinkosei


[(い・ろ・は)みじんこ類 (に・ほ・へ)けんみじんこ類]

 

 天水桶などの中に澤山游いで居る「みぢんこ」は「えび」・「かに」などと同じく甲殼類に屬するが、身體は「のみ」程の大きさよりない。これも魚類などに盛に食はれるから、敵に攻められぬ隙に急いで蕃殖せぬと種族の維持がむつかしい。「ありまき」も「みぢんこ」も共に敵に對して身を護る裝置は特に發達せず、その代り蕃殖の方に全力を注いで、幾ら食はれてもなほ殘るやうに努める動物である。即ち旺盛な生殖力を唯一の武器として生存して居る。それ故「みぢんこ」なども「鬼の留守に洗濯」といふ諺の如く、熱い夏の間に頗る盛に蕃殖するが、その方法はすべて單爲生殖による。「みぢんこ」の澤山游いで居る處を掬ひ取つて見ると、大抵は雌ばかりで雄は殆どない。しかもそれが皆子を持つて居る。普通の「みぢんこ」の身體は、恰も羽織か外套を著た如くに、一種の殼で被はれて居て、殼と胴との間には空處があるが、夏盛に生まれる卵は直に親の體からは離れず、暫時この空處に留まつて、その内で速かに發育し、親と同じ形になつて水中へ游ぎ出すのである。「みぢんこ」を度の低い顯微鏡で覗いて見ると、親の背にある殼の内側に幾疋も小さな子が壓し合つて居るが、これは單爲生殖によつて出來た子であるから、一疋として父を有するものはない。秋の末になつて水が冷くなると雄も生まれ、雌は特に殼の厚い大きな卵を産むが、この卵は冬氷が張つても死なずに翌年の春孵化して、その中からまた雌が出て來る。但しこの雌だけには明に父がある。そしてこの雌がまた盛に子を産んで夏の間に無數に殖える。かくの如く水中の「みぢんこ」の生殖の模樣は、大體に於ては陸上の「ありまき」の生殖と相似たもので、雙方ともに速に蕃殖するときには單爲生殖により、冬を越して種族を繼續せしめるに當つては雌雄兩親の揃つた生殖法を行ふのである。「みぢんこ」の中でも「しゞみ」や「はまぐり」の形に似た「介みぢんこ」の類には、冬になつても單爲生殖續け、ために今日まで一度も雄が見いだされぬものもある。

 


Kaimijinko


[介みぢんこ]

 

[やぶちゃん注:「みぢんこ」既注であるが新たに生態を含めて再注しておく。ミジンコは「微塵子」「水蚤」などと書き、水中プランクトンとしてよく知られる微小な節足動物である甲殻亜門鰓脚綱葉脚亜綱双殻目枝角(ミジンコ)亜目 Cladocera 属する生物の総称。形態は丸みを帯びたものが多く、第二触角が大きく発達して、これを掻いて盛んに游泳する。体長〇・五~三ミリメートル前後の種が多いが、中には五ミリのオオミジンコ Daphnia magna Strausや、一センチメートルに達する捕食性ミジンコのノロ Leptodora kindtii などもいる(以上はウィキの「ミジンコ目」に拠った)。ウィキの「ミジンコ」によれば、『ミジンコには、自分とおなじクローンしか産まない単為生殖期と、交配して子孫を残す有性生殖期がある。一般的に、通常(環境の良いとき)はメスを産み、生存危機が迫ったときにだけオスを産んで交配するといわれている。また、エサや水温、日照時間の変化により、休眠卵とよばれる卵を作り、有性生殖期には雌雄による受精卵を作ることもある』とある。

「介みぢんこ」狭義には甲殻亜門顎脚綱貝虫亜綱ミオドコパ上目ミオドコピダ目 Myodocopida に属するもの、広義には貝虫亜綱 Ostracoda に属するものを総称し、種としては推定でも一万から一万五千種が現生すると考えられている。カイミジンコ(英名:Ostracod)は長さ〇・三~五ミリメートル程度(例外的に三〇ミリメートルに及ぶ種もあり)、の小さな甲殻類で深海から汽水・淡水、湿った落ち葉の中などにも棲息する。体は殻で包まれており、背部に蝶番を持つ。一般的には八対の手足を持った複雑な構造を成している。参照させて戴いたRobin J. Smith氏の「Ostracod research at the Lake Biwa Museum(リンク先は邦文ページ)が詳細を極める(素晴らしいページで必見!)。それによれば、『多くの淡水カイミジンコは交尾することなく自分のクローンをつくることによって繁殖します(無性生殖)。これは単性生殖とよばれ卵に感染する寄生バクテリアによって起こります。そのような種はその寄生バクテリアがオスの形成を抑制するためすべての個体がメスで構成されています。 なかには地理的な単性生殖をみせる種もおり(Eucypris virens など)、南ヨーロッパでは有性生殖、他の場所では単性生殖をします』。『短い目で見ると無性生殖には利点があり、例えば、オスをつくったり交尾相手を捜す時間もエネルギーも無駄にすることがなく、新しい個体をつくるのに一つの個体しか必要ありません。したがってそのような種は有性生殖をする種より早く広まっていくことができます。しかしながら、長い目で見ると無性生殖は遺伝的な変異を引き起こし、無性の個体群は死滅していくことになります。全くの無性である種は若く、未来のない短命の種であると考えられます』。但し、『ひとつだけ不可解な例外があります。それは Darwinulidae 科とよばれる淡水カイミジンコです。その化石は、このグループには何百万年も、おそらく2億年もの長い間オスがいなかったことを示しています。現在も Darwinulidae は世界中で生息しており新しい種もいまだに発見されています。しかしすべての無性個体群はメスだけで構成されています。そのようなグループは「古代無性種」とよばれており、最近の研究ではその生存と進化の秘密を解明しようと試みられています』。 ただスミス氏のカイミジンコについてのくべの記載を読むと、カイミジンコの亜科 Cypridoidea は巨大な精子を作るとあって、例えば Propontocypris monstrosa は体長〇・六ミリメートルしかないにも拘らず、体長の十倍の六ミリメートルもの長さの『精子をつくります。このグループのオスは同様にその巨大なサイズに対応するための大きな生殖器をもっており、その精子をメスに送り込むためのゼンカー器とよばれる2つの大きな筋肉質のポンプを持っています。その精子全体が卵に入り込み、殻のすぐ下の卵の中で巻かれます』とあり、他にもスミス氏のリンク先の記載には四億二千五百万年前のカイミジンコ最古の化石種からはペニスが発見されているともあって、丘先生の『今日まで一度も雄が見いだされぬ』(下線やぶちゃん)という謂いは、現在では「殆どの種で」と補正される必要があると思われる。]

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