凩に匂ひやつけし歸り花 芭蕉 萩原朔太郎 (評釈)
凩(こがらし)に匂ひやつけし歸り花
冬の北風が吹きすさんで庭の隅に、佗しい枯木の枝に嘆いてる歸り花を見て、心のよるべない果敢なさと寂しさとを、しみじみ哀傷深く感じたのである。
[やぶちゃん注:『コギト』第四十二号・昭和一〇(一九三五)年十一月号に掲載された「芭蕉私見」の中の評釈の一つ。昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「附錄 芭蕉私見」でも一字一句に至るまで相同。句は元禄四(一六九一)年冬の大垣でのもの。「奥の細道」を終えた後の、長かった落柿舎・近江などでの上方滞在を済ませ、最後の東下に向かった途次の嘱目吟。「歸り花」は狂い咲きの花のこと。]