中島敦短歌拾遺(4) 昭和12(1937)年手帳歌稿草稿群より(3)
緋にもゆる胸毛にくちをさし入れてあうむうつくねむりてゐるも
くびをまげ翼の脇に嘴(くち)を入れてあうむうつくねむりてゐるも【全抹消】
眼をとぢて目にぬくもれる緋あうむの頰の毛脱けていたいたしげりなり
[やぶちゃん注:「目」には底本にママ注記がある。「日」の字の敦の誤記と思われる。「いたいたしげなり」の後半の「いた」は底本では踊り字「〱」。]
いにしへのだるま大師もなが如く緋衣ひきて物思ひけむ
娼婦(たはれめ)の衣裳(きぬ)をまとへる哲學者あうむは眼をとぢ物を思ふ
緋衣の大嘴鸚鵡我を見て、又ものうげに眼をとぢにけり
[やぶちゃん注:「大嘴鸚鵡」は「おおはしあうむ」と訓じていよう。]