『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(8)
游江島 千葉玄之〔字子玄號芸閣〕
金龜孤島鎭關東。
琪樹玲瓏此地雄。
靑壁高懸天女洞。
白波直撼妙音宮。
鰲身堪曝扶桑日。
鵬翼將搏溟渤風。
知是三山應不遠。
樓臺總在彩雲中。
[やぶちゃん注:作者は儒者千葉芸閣(ちばうんかく 享保一二(一七二七)年~寛政四 (一七九二)年 「芸」は正確には(くさかんむり)が切れ、藝の新字体である「芸」とは別字。香草の名で、その葉は書物の虫食いを防ぐのに使われたことから「書物」をいう語である)。秋山玉山に学んで下総古河藩藩主土井利里に仕えたが、中傷を受けて辞して後、江戸駒込に塾を開いた。名は玄之、字は子玄。通称、茂右衛門。著作は「詩学小成」「標箋孔子家語」「重刻荘子南華真経」「官職通解」「唐詩選掌故」など多数。
江島に游ぶ 千葉玄之〔字は子玄、號、芸閣。〕
金龜の孤島 關東を鎭め
琪樹(きじゆ) 玲瓏として 此の地 雄たり
靑き壁 高く懸けたり 天女の洞
白波(しらなみ) 直ちに撼(うご)かす 妙音の宮
鰲身(がうしん) 曝すに堪ふ 扶桑の日
鵬翼(ほうよく) 將に搏(はばた)かんとす 溟渤の風
知る 是れ 三山 應に遠からざるを
樓臺 總て 彩雲の中(うち)に在り
「琪樹」崑崙山 (中国の西方にあると考えられた仙山で仙女西王母が住むとされる) の北にある宝玉のなる木。ここは島の樹木が美しく茂ることを言った。
「鰲」大きな亀。伝説上の神獣で背に蓬莱山などの仙山を載せているとされる。
「扶桑」中国神話にみえる太陽の昇る木。
「鵬」「荘子」に出る想像上の大鳥(おおとり)。翼長三千里、一度羽ばたけば九万里を飛ぶという(但し、中国古代や現代中国の一里は約五百メートルであるから、三千里は一五〇〇キロメートル、九万里は四五〇〇〇キロメートル)。
「溟渤」果てしなく広い海。大海。]
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