鬼城句集 秋之部 秋雨/秋風
秋雨 秋雨やよごれて歩く盲犬
御佛のお顏のしみや秋の雨
秋雨や柄杓沈んで草淸水
秋雨や鷄舍に押合ふ鷄百羽
秋雨や眞顏さみしき狐凴
[やぶちゃん注:「狐凴」は「きつねつき」である。「凴」は「凭」と同字で、狐の霊がよる・よりかかる・もたれるの意で、「憑」の誤字ではないと私は考える。大方の御批判を俟つ。]
秋雨や賃機織りてことりことり
[やぶちゃん注:「ことりことり」の後半は底本では踊り字「〱」。「賃機」は「ちんばた」或いは「ちんはた」で機(はた)屋から糸などの原料を受け取って賃金を貰って機を織ること。]
秋の雨一人で這入る風呂たてぬ
[やぶちゃん注:鬼城先生に不遜だが、私なら「たてね」とするであろう。]
秋雨に聖賢障子灯りけり
[やぶちゃん注:「聖賢障子」は「せいけんしやうじ(せいけんしょうじ)」と読む。賢聖障子(げんじょうのしょうじ)。内裏の紫宸殿の母屋と北廂を隔てるために立てられていた障子(襖)。九枚あり、中央には獅子・狛犬と文書を負った亀を、左右各四枚には中国唐代までの聖賢名臣を一枚に四人ずつ計三十二人の肖像を描いたもの。ウィキの「賢聖障子」によれば、現存最古の賢聖障子は狩野派の絵師狩野孝信が慶長一九(一六一四)年『に描いたもので、現在仁和寺が所蔵し重要文化財に指定されている』とある。]
秋雨や石にはえたる錨草
[やぶちゃん注:「錨草」モクレン亜綱キンポウゲ目メギ科イカリソウ
Epimedium grandiflorum。ウィキの「イカリソウ」によれば、花は赤紫色で春に咲き(従って本句の映像にはない)、四枚の花弁が距(きょ:植物の花びらや萼の付け根にある突起部分で内部に蜜腺をもつ。)を突出して錨のような特異な形状を成しているため、『この名がある。葉は複葉で、1本の茎に普通1つ出るが、3枚の小葉が2回、計9枚つく2回3出複葉であることが多い。東北地方南部以南の森林に自生し、園芸用や薬用に栽培されることもある』とある。]
秋風 秋風や子を持ちて住む牛殺し
山畑や茄子笑み割るゝ秋の風
秋風に忘勿草の枯れにけり
街道やはてなく見えて秋の風
秋風や犬ころ草の五六本
秋風に大きな花の南瓜かな