門を出て故人に逢ひぬ秋の暮 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
門を出て故人に逢ひぬ秋の暮
秋風落寞、門を出れば我れもまた落葉の如く、風に吹かれる人生の漂泊者に過ぎない。たまたま行路に逢ふ知人の顏にも、生活の寂しさが暗く漂つて居るのである。宇宙萬象の秋、人の心に食ひ込む秋思の傷みを咏じ盡つくして遺憾なく、かの芭蕉の名句「秋ふかき隣は何をする人ぞ」と雙璧し、蕪村俳句中の一名句である。
この句几董の句集に洩れ、後に遺稿中から發見された。句集の方のは
門を出れば我れも行人秋の暮
であり、全く同想同題である。一つの同じテーマからこの二つの俳句が同時に出來た爲、蕪村自身その取捨に困つたらしい。二つとも佳作であつて、容易に取捨を決しがたいが、結局「故人に逢ひぬ」の方が秀れて居るだらう。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「秋の部」巻頭。]
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