八つの指を持つ妬心 大手拓次
八つの指を持つ妬心
金屬盤(きんぞくばん)のうへに
遠くおとづれてくる鐘のねをうつしうゑて
まどろみをつのぐませ、
失心した やけただれた妬心(としん)の裸身(はだかみ)を船にのせて彫刻する。
これは 變轉する相(さう)の洪水だ!
微笑の丘(をか)をつらぬく黄金(わうごん)の留針(とめばり)だ!
むらさき色を帶びた八つの指の姿は 馬にのつて
びうびうと 狂ひ咲いてゐる。
さうして 白眼(しろめ)を凝(こ)らした夜(よる)の蛙が
空閒(くうかん)をよぎつて呼吸をしぼりだしてゐる。
[やぶちゃん注:「つのぐませ」「つのぐむ」は「角ぐむ」(「ぐむ」は体言に附いて、その様子が見え始めるという意に動詞化する接尾語)目が角のように出始めるの意。通常は葦・薄・菰(こも)などの鋭利な植物の芽吹きに対して用いる。]
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