噴水の上に眠るものの聲 大手拓次 《第17連》
ひとつの言葉にひとつの言葉をつなぐことは花であり、笑ひであり、みとのまぐはひである。白い言葉と黑い言葉とをつなぎ、黄色い言葉と黑い言葉とをつなぎ、靑の言葉と赤の言葉とを、みどりの言葉と黑い言葉とを、空色の言葉と淡紅色の言葉とをつなぎ、或は朝の言葉と夜の言葉とをつなぎ、晝の言葉と夕の言葉とをむすび、春の言葉と夏の言葉とを、善と惡との言葉を、美と醜との言葉を、天と地との言葉を、南と北との言葉を、神と惡魔との言葉を、可見の言葉と不可見の言葉とを、近き言葉と遠き言葉とを、表と裏との言葉を、水と山との言葉を、指と胸との言葉を、手と足との言葉を、夢と空との言葉を、火と岩との言葉を、驚きと竦みとの言葉を、動と不動の言葉を、崩壞と建設の言葉を……つなぎ合せ、結びあはせて、その色彩と音調と感觸とあらゆる混迷のなかに手探りするいんいんたる微妙の世界の開花。
[やぶちゃん注:「淡紅色」には、思潮社版及び岩波版では「ときいろ」とルビが振られている。また、太字「いんいん」は底本では傍点「ヽ」である。]
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