みづいろの風よ 大手拓次
みづいろの風よ
かぜよ、
松林(しやうりん)をぬけてくる 五月の風よ、
うすみどりの風よ、
そよかぜよ、そよかぜよ、ねむりの風よ、
わたしの髮(かみ)を なよなよとする風よ、
わたしの手を わたしの足を
そして 夢におぼれるわたしの心を
みづいろの ひかりのなかに 覺(さ)まさせる風よ、
かなしみとさびしさを
ひとつひとつに消(け)してゆく風よ、
やはらかい うまれたばかりの銀色の風よ、
かぜよ、かぜよ、
かろくうづまく さやさやとした海邊(うみべ)の風よ、
風は おまへの手のやうにしろく つめたく
薔薇の花びらのかげのやうに ふくよかに
ゆれてゐる ゆれてゐる、
わたしの あはいまどろみのうへに。