散文詩 緑の暗さから 大手拓次
散文詩
綠の暗さから
時計が朝の十時を打つといふのに、どうしたものか、ほんとにさびしい蛙めが、くる、くる、くる、くる、とないてゐる。
古くさい小池の綠には、薄紫のつつじ、生々とした笹の葉、楓や松や檜や、石菖や、がある。
蛙めが、ごうる、ごうると鳴く。
昨日植ゑたばかりの石竹の鉢がいくつも石燈籠の側の日かげにある。
五月のあつたかい日光にあつたまつて、あのぶ樣(ざま)な蛙めが一生一度の喉笛をならして吹く……てるてる、くるくる、…… がをうるぐうる。
わたしは、うつとりとして蛙に感謝してゐました。
げつ、げつげつ、いや滅法もない陰氣な音。