海手より日は照つけて山櫻 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
海手より日は照つけて山櫻
海岸に近い南國の風景であり、光と色彩が強烈である。蕪村は關西の人であり、元來が南國人であるけれども、好んでまた南國の明るい風物を歌つたのは、彼自身が氣質的にも南國人であつたことを實證して居る。これに反して芭蕉は、好んで奧州や北國の暗い地方を旅行して居た。芭蕉自身が、氣質的に北國人であつたからだらう。したがつてまた、芭蕉は憂鬱で、蕪村は陽快。芭蕉は瞑想的で、蕪村は感覺的なのである。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「春の部」より。……知り合いの人類学者によれば私は典型的な南洋系の面貌なのだそうだ。……そうか、僕は実は――陽快で感覺的――なのか……]