『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(10)
游江島 岳融
妙音天女殿。
寄跡水雲深。
湧出孤峰上。
蒼茫大海心。
蜃樓疑隱見。
鼈背懼浮沈。
囘舫蚌中月。
獻珠升島陰。
[やぶちゃん注:「岳融」は不詳ながら、司馬江漢の「地毬全圖略説」とセットになった平射図法による東西両半球図「地球全圖」、その初出図「輿地全図」に序言を寄せている人物に「岳融」の名を見出せる。同一人物であろう。
江の島に游ぶ 岳融
妙音天女の殿
跡に寄るに 水雲 深し
湧出せる 孤峰の上
蒼茫たる 大海の心(しん)
蜃樓は 隱見を疑ひ
鼈背は 浮沈を懼(おそ)る
囘舫す 蚌中の月
珠を獻ぜんとして 島陰に升(のぼ)る
「囘舫」は再び戻って舫(もや)いを繫ぐこと、「蚌中の月」は真珠のことであるが、次の最終句から、ここは比喩が本来の実態である文字通りの月そのものに譬えられたものであることが分かる。一夜過ぎて、月が一廻りし、再び妙音天女の美貌を飾るために江の島山上に立ち上ったことを「囘舫」としたものであろう。]
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