中島敦 南洋日記 九月十五日
九月十五日(月) 晴 (パラオ丸)
午後一時半乘込、谷口君、荷物をもつて船まで來てくれる。同室、農林課の前田技師。海頗る靜か。飛魚頻りに飛ぶ、左舷にあたり忽然として、巨魚の尾突出す、
鯨なるか、鯱なるか、海豚なるか、を知らず。淀川君と少時談話す、横濱に歸り度くて堪らぬ由、さもあるべし、夜、船長、事務長、山根氏と麻雀。
[やぶちゃん注:この尾鰭の図からは種は同定不能。
「パラオ丸」船籍は日本真珠有限會社(東京)。このまさに直前の昭和十六年九月一日に日本海軍に徴傭されている(同年十月二十五日入籍・内令第1282号・特設監視艇・横須賀鎮守府所管)。後、昭和十九年一月三十日未明、クエゼリン環礁(Kwajalein Atoll:ホノルルの南西三九〇〇キロメートルに位置するマーシャル諸島ラリック列島の環礁。)に於いて消息を絶った。米軍機による空爆或いは米艦船による艦砲射撃によって沈没したものと推測される(サイト「大日本帝國海軍 特設艦船 DATA BASE」の「パラオ丸」に拠った)。
「谷口君」不詳。「君」附けしているので年少である。
「山根氏」同じ南洋庁所属の官吏と思われるが不詳。]

