中島敦短歌拾遺(4) 昭和12(1937)年手帳歌稿草稿群より(13) 奇体にして妖しき四句体歌
別るゝと かねて知りせば
なかなかに 遇はざらましを【二行ともに全抹消】
[やぶちゃん注:突然、ここから最後まで分かち書きとなる。本歌は総て抹消されている。「なかなか」の後半は底本では踊り字「〱」。この抹消歌は以下続く歌を見れば一目瞭然であるが、これは――短歌の未完抹消――ではない。これらは五七五七形式の四句体歌である。しかも以下、少なくとも分かち書きの六首目までは、先行する妖しい秘かなる恋歌十一首の改稿再詠(必ずしも順番に書いている保証はないものの)と考えてよいと思われる。]
駿河野の 八月の朝は
女郎花 房重げなり
[やぶちゃん注:別案として、
駿河野の 八月の朝は
女郎花 房繁かりし
が復元出来る。]
花かざし ふりさけ見れば
富士ケ嶺も 間近かりけり
街道に 未だ人なく
蘭の香の、はつかに洩れつ
[やぶちゃん注:別案として、
街道は 未だ人なく
蘭の香の、はつかに洩れつ
が復元出来る。]
手を曳きて、繭の市場の
裏どほり 歸りきしかな
[やぶちゃん注:別案として、
手を曳きて、繭の市場の
裏道を 歸りきしかな
が復元出来る。本歌は本手帳で先行する、
昏のまゆの市場の裏路のまゆの匂もなつかしきかな
の別稿である。]
かねて知る 別れなれども
すべなしや なみだ流るゝ【二行ともに全抹消】
[やぶちゃん注:あたかも不思議な四句体歌を四首中に挟んで、呪符の如く抹消歌が額縁の如あるかに私には見える。]
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