中島敦 南洋日記 九月二十四日
九月二十四日(水)
曇、時々雨。些か搖れる。午前中引寵る。夜、ラヂオにて、パラオ放送局開局祝の放送を一部、聞く。
多少醉氣味なり。
[やぶちゃん注:同日附桓宛書簡一通が残る(旧全集「書簡Ⅱ」書簡番号三五。太字は底本では傍点「ヽ」)。
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〇九月二十四日附(パラオ丸にて)。
夜(よる)です。
くらい海の上に、火が見えます。
船の人にきくと、あれはむかふに島があつて、そこの島民が火をたいてくれるのださうです。
南洋の島のまはりには、たいていさんごせうがあつて、船がそれにぶつかるとあぶないといふので、島民たちが火をたいて「ここに島がありますよ」としらせてくれるのです。
島民たちは、かんしんですね。
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……南洋の島民はかんしんですね、それにくらべると、よごれたおそろしい水を知(し)らんふりをして太平洋にながしつづけてゐるだれかさんは、ほんたうの野(や)ばん人(じん)ですね、……]

