鬼城句集 蜩に關屋嚴しく閉ぢにけり 附 筑紫磐井と句集「婆伽梵」のこと
蜩 蜩に關屋嚴しく閉ぢにけり
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一句落していたので追加する。時代詠である。
以下、脱線である。
過去の時代を詠むと言えば、二十年ほど前に読んだ筑紫磐井(つくしばんせい)の句集「婆伽梵」(ばかぼん:弘栄堂書店・1992年刊)を思い出す。評者に俳句による私説日本史と称えられたその読解出来なかった幾つかの句を亡くなった同僚にして師であった猪瀬達郎先生に解釈して戴いたりしたが、分かってしまえばそれだけの句集として忘却の彼方へ去っていた。今日久々にぱらぱらと詠んでみたが、あの若き日に斬新と感じたものが、一向に迫って来ない。迫って来ないのはサングラスで顔を隠し、勝手に加藤郁乎に弟子にされたと言う、俠客みたような作者が今や正体を明かし、その経歴の中に「核燃料サイクル開発機構(現独立行政法人日本原子力研究開発機構)経営企画本部事業計画部長」という肩書があるのを見てしまったからであろう。宮仕えの悲哀は退官ぐらいで消失出来るものではあるまいな? 「3・11の時代詠」を一冊の句集に致すぐらいでなければ(もしやそれを致いておらるるとならば却って尊敬出来ようほどに)――
大元帥陛下は薔薇の濃きに醉ふ
桃熟れて不逞の密議かくも長し
春陰に思ふ帝國の落し紙
東洋のオリムピックの蘭よ菊よ
軍神も七月の足臭からめ
多産の夏貯蓄に勵め小國民
麥の穗が兵と生まるる八路軍
炎天の影ことごとく殲滅す
八月は日干しの兵のよくならぶ
忘暑なるまがねの下の一柱
(以上、筑紫磐井「婆伽梵」掉尾に配された「帝國陸軍」より。但し、「神」「麦」「穂」は何故か新字であるので恣意的に正字化した)