噴水の上に眠るものの聲 大手拓次 《第18連》
まことに言葉はひとつの生き物である。それは小兒の肌ざはりである。やはらかく、あたたかく、なめらかに、ふしぎにうごめき、もりあがり、けむりたち、びよびよとしてとどまらず、こゑをしのび、ほほゑみをかくし、なまなまとして夢をはらみ、あをくはなやぎ、ほそくしなやかに、風のやうにかすかにみだれ、よびかはし、よりかかり、もたれかかり、夜毎にふくらみ、ほのかに赤らみ、すべすべとしてねばり、はねかへり、ぴたぴたと吸ひつき、絶えず生長し、ひかりかがやき、よろこびを吹き、感じやすく、響きやすく、ことごとくの音をきき色をうつし、時とともにとびさる感情の繪をゑがき、日とともに新しく、唄の森林をはびこらせる。
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