床の中での思想 萩原朔太郎
床の中での思想
朝、寢床の中で考へる時、今日の一日の生活が、ひどく無意味に退屈であり、何の仕事への興味もなく、人生そのものが厭はしいほど、暗黑で絶望的なものに考へられる。反對にまたある場合は、何かしら樂しいことが、何處かで自分を待つてゐるやうに思はれ、漠然とした幸福の豫感が、朝の麗らかな空の下で、微笑みかけてるやうに思はれる。だが起きて着物をきてしまへば、現實はそのどつちほどでもなく、相變らずの日課を繰り返すところの、平凡で中庸的なものに過ぎない。――老年になつてから、その一生を囘顧する人々は、自分があまりに長い間、寢床で考へすぎたことを後悔する。
[やぶちゃん注:昭和一五(一九四〇)年七月創元社刊のアフォリズム集「港にて」の「個人と社會」より。]

