春晝 萩原朔太郎
春晝
――叙情小曲――
うぐゐすは
金屬(きんぞく)をもてつくられし
そは畔(ほとり)の暗(くら)きに鳴(な)き
菫(すみれ)は病欝(びやううつ)の醫者(いしや)のやうに
野(の)に遠(とほ)く手(て)に劇藥(げきやく)の
鞄(かばん)をさげて訪(おと)づれくる。
ああすべて惱(なや)ましき光(ひかり)の中(なか)に
桃(もゝ)の笑(ゑ)みてふくらむ
情慾(じやうよく)の一時(じ)にやぶれて
どくどくと流れ出てたり。
[やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年四月十一日附『東京朝日新聞』に掲載された。底本筑摩版全集第三巻「拾遺詩篇」より。「うぐゐす」はママ。最終行は同全集校訂本文では「どくどくと流れ出でたり。」と訂されてある。]
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