鮒鮓や彦根の城に雲かかる 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
鮒鮓や彦根の城に雲かかる
夏草の茂る野道の向ふに、遠く彦根の城をながめ、鮒鮓のヴイジヨンを浮べたのである。鮒鮓を食つたのではなく、鮒鮓の聯想から、心の隅の侘しい旅愁を感じたのである。「鮒鮓」といふ言葉、その特殊なイメーヂが、夏の日の雲と對照して、不思議に寂しい旅愁を感じさせるところに、この句の秀れた技巧を見るべきである。島崎藤村氏の名詩「千曲川旅情の歌」と、どこか共通した詩情であつて、もつと感覺的の要素を多分に持つて居る。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「夏の部」より。「城」は「じやう(じょう)」と読む。]
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