『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(14)
游江島 牧野履〔字履御號鉅野〕
天女降孤島。
龍宮閟古墟。
地隨波下上。
淵與月盈虛。
危木千年外。
斷崖百丈餘。
蜃樓臨島道。
鮫室雜僧廬。
苔蝕秦碑字。
雲封禹穴書。
鵬圖堪極目。
鼈背欲褰裾。
求藥雨晴後。
探珠潮落初。
自疑吾骨化。
稍覺世情疎。
窈窕窺仙窟。
飛揚迫帝居。
從來霊異境。
無客不躊躇。
[やぶちゃん注:「辱樓」底本は「辱樓」。国立国会図書館の近代デジタルライブラリーの「相模國風土記」の「藝文部」で訂した。「牧野鉅野(きょや)は儒学者で詩人。
江の島に游ぶ 牧野 履〔字は履御、號は鉅野。〕
天女 孤島に降り
龍宮 古墟を閟(とざ)す
地は波に隨ひ 下し上し
淵と月と 盈虛たり
危木 千年の外
斷崖 百丈餘
蜃樓 島道に臨み
鮫室(かうしつ) 僧廬に雜(まぢ)る
苔は蝕む 秦碑の字
雲は封ず 禹穴の書
鵬圖(ほうと) 目を極めて堪へ
鼈背(べつはい) 裾を褰(かか)げんと欲す
藥を求む 雨ふりて晴るるの後
珠を探す 潮の落ちたる初め
自から疑ふ 吾が骨の化(け)するを
稍(やや)覺ゆ 世情に疎きを
窈窕たる仙窟を窺ひ
飛揚して帝居に迫る
從來(もとより) 霊異の境
客(かく) 躊躇せざる無し
「盈虛」通常は月が満ちたり欠けたりすることであるが、ここは潮の干満も含む。
「鮫室」鮫人(中国で南海に棲むという人魚に似た想像上の異人。常に機を織り、しばしば泣くが、その涙が落ちると玉になるという)の水中の居室。
「鵬圖」「鼈背」はそれぞれの思いとか背部というよりは、「鵬」や「鼈」を指すものと読む。
「自から疑ふ 吾が骨の化(け)するを」訓読に自信なし。
「窈窕」美しくしとやかなさま、上品で奥ゆかしいさまであるが、語順に不審がある。
「帝居」天帝の住むところ。]
« 生物學講話 丘淺次郎 第九章 生殖の方法 四 芽生 群体類の芽生 | トップページ | 北條九代記 德大寺殿諫言 付 西園寺右大膳父子召籠めらる 承久の乱【五】 »