耳嚢 巻之七 彦坂家椽下怪物の事 / 「耳嚢 巻之七」了 700話迄完結!
彦坂家椽下怪物の事
文化三年小普請支配なりし彦堺九兵衞駿府御城番被仰付(おほせつけられ)、彼(かの)地へ引越(ひつこす)とて家内取込居(とりこみをり)たりし折節、或日椽下(えんのした)より奇怪の者出ける由、頭は鼬(いたち)の如(ごとく)、足手はなく惣身(そうみ)は蛇の如く、大(おおい)さ弐尺廻り程にてしゆろの如き毛惣身に生ひて長さ三丈斗(ばかり)もあるべし。椽下より出て庭の内を□りて暫く過(すぎ)、又椽の下へ入(いり)しと也。何と申(まうし)者にや知る者さらになしと也。
□やぶちゃん注
○前項連関:特になし。UMA譚。何らかの蛇と推定するにはサイズ、デカ過ぎ。縁の下にまた入ちゃったって、そのまま? 後に入る人はおとろしけない!(富山弁で「恐ろしい」の意) これって、そうした後の入居者をビビらせるための、悪戯っぽい都市伝説の臭いがする。底本「耳嚢 巻之七」掉尾第百話。
・「文化三年」「卷之七」の執筆推定下限は文化三(一八〇六)年夏。
・「彦堺九兵衞」底本鈴木氏注に彦坂忠篤(ただかた)とする。寛政六(一七九四)年御先弓頭、文化三年六月駿府城番、とある。
・「大さ弐尺」太さ約六十一センチメートル弱。これじゃ、丸太やがね!
・「しゆろの如き毛」蛇類の脱皮後の殻が付着したままだとこんな風には見えないことはないけど……サイズがぶっとんどるがね! だちかん!(富山弁「ダメ!」)
・「長さ三丈斗」長さ約九メートル。山ん中の蟒蛇ならまだしも、江戸でしょうが? 現生蛇類でもこんな長いのおりやせんぜ!
・「□りて」底本では右に『(蟠カ)』と注する。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版では『輪になりて』。
■やぶちゃん現代語訳
彦坂家の縁の下の怪物の事
文化三年、小普請支配であった彦堺九兵衛殿、駿府御城番を仰せつけられ、かの地へ引越すということで、数日に亙って屋敷内の片付けに取り込んで御座った、ある日のこと、縁の下より奇怪なる物が出現致いた由。
頭は鼬(いたち)のようで、足や手はなく、惣身(そうみ)は蛇に似ており、その胴部の太さはたっぷり二尺ほどもあって、棕櫚(しゅろ)の如き毛が惣身に生えており、全長は有に三丈ばかりもあろうかという奇体なシロモノで御座った。
縁の下より出でて、庭の内をぐるぐるととぐろを巻いて暫く這いまわったかと思うたら、また縁の下へずるずるっと入り込んだ、とのことで御座る。
何と申す生き物であるか、知る者は全くいなかった、とのことで御座る。
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以上を以って「耳嚢 巻之七」を終了、「耳嚢」1000話の内、オリジナル訳注を700話まで達成した。