ヒッキリッコ
夏近くなると、ほこりのまみれた道ばたのオオバコは、花茎がぐんぐんのびて細長い小さな白い花を密集して咲かせます。それがネズミの尾のように風にゆらいで見えるので、子どもたちはこの花茎を引き抜くと。「ネズミだぞ!」などと、いいながら、チュウチュウと友だちの衿くびや頰を撫でて、いたずらをしました。そんなとき、きっとだれかがヒッキリッコしよう! といいだすと、どの子もどの子も花茎を両手一パイに引き抜いてきて、木陰の道ばたで遊びはじめます。ヒッキリッコとは子どもたちがお互いに花茎をU字型に曲げて、相手のU字型に引っかけて引き合いごっこする遊びです。そしてどちらかが切れると負になりますが、この勝負(かちまけ)をきめることが相撲をとるようだから、オオバコをスモートリグサ(千葉県、静岡県、奈良県、新潟県、長崎県)、スモートリバナ(長崎県)またはトリコパコ(秋田)、ビッキリコー(長野)などと遊び名がそのまま草の名になっているところもあります。また変わったところでは、ひっぱるというよりも左右交互に手を引きあい、ズイコン、ズイコンといいながら遊ぶところが長野県にあります。福島県の檜枝岐(ひのえまた)では同じ遊びをズイコ、メーコ、ズイコ、メーコといいますが、山形県庄内ではズッコン、メッコンと少し変わります。どちらの遊びも遊び言葉も、木樵(きこり)が鋸(のこぎり)で丸太を挽くところを連想したもので、とくにオオバコの花茎の莟(つぼみ)がパラパラと落ちるところは、鋸屑(おがくず)と同じように見えるので、遊びをますます面白くしました。ところが同じ遊びでも土地が変わると遊びの連想も異なるもので、長野県では、
イスス(石臼(いしうす))ゴーゴー金(かね)ゴーゴー
とうたいながら交互に引きあって遊びます。イススとは粉を挽く石臼のことで、父母親たち二人が石臼に繩をかけて、左右に繩を交互に引いて臼が半回転してはもどり、粉を挽く有様に良く似ているからです。新潟県の六日町ではこの遊び唄に、
臼ひきザンゴー 米かみザンゴー
山に米がたくさんで
となりの爺さまみな嚙(か)んだ
ザンゴー ザンゴー
と子どもたち二人が向かいあい、この唄をうたいながらどちらの花茎が早くすり切れるか、遊びをしました。
(中田幸平「野の民俗―草と子どもたち―」社会思想社現代教養文庫998・1980年刊)
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