みらくる 萩原朔太郎 (「瞳孔のある海邊」初出形)
みらくる
地上に聖者あゆませたまふ、
烈日のもと、聖者海邊に來れば寄する浪浪、
浪浪、砂をとぎ去るうへを、
聖者ひたひたと歩行したまふ、
おん脚しろく濡らし、
怒りはげしきにたへざれば、
足なやみひとり海邊をわたらせ給ふ、
みよ烈日の丘に燃ゆる瞳孔あり、
おん手に魚あれども泳がせたまはず、
聖者めんめんと涙たれ、
はてしなき砂金の路を踏み行き給ふ。
[やぶちゃん注:『詩歌』第四巻第七号・大正三(一九一四)年七月号に掲載された。後、大正一二(一九二三)年七月新潮社刊の詩集「蝶を夢む」に以下のように「瞳孔のある海邊」と改題した上、
瞳孔のある海邊
地上に聖者あゆませたまふ
烈日のもと聖者海邊にきたればよする浪々
浪々砂をとぎさるうへを
聖者ひたひたと歩行したまふ。
おん脚白く濡らし
怒りはげしきにたへざれば
足なやみひとり海邊をわたらせたまふ。
見よ 烈日の丘に燃ゆる瞳孔あり
おん手に魚あれども泳がせたまはず
聖者めんめんと涙をたれ
はてしなき砂金の道を踏み行きたまふ。
と、表記の一部に手が加えられて所収されている。]

