和讃類纂 萩原朔太郎
和讃類纂
一咏
ゆきはふる
まなつまひるのやまみちに
光るこなゆき
さんらんたりや
わが道心のたなごころ
うすら佗しきたなごころ
二咏
ひじりのみあし
つめたきみあし
おんかたへやるせなく
かけまはるそうぞくの
しののめのこゆむらさき
いろのあさがほ
三咏
なみぢのうへを
とほくよりあゆませたまふ
わが主いえすよ
ふなべりになみだをながし
いちねん祈願したてまつる
ひとの子のわれの身のうへ
おぼるるものはぺてろなり
四咏
はなをつむ
はなをつむこころはへ
しろがねづくりの靴をはき
みなつきはぢめ
くさばなのたねをつむ
たねをつむこころはへ
五咏
すゞめ
すゞめ
金のこなふる奥山(おくやま)に
しんじついとしいべにすゞめ
すゞめ
すゞめ
み山の奥のべに雀
[やぶちゃん注:『侏儒』第四号・大正三(一九一四)年十一月号に掲載された。あまり聞かない『侏儒』という詩誌は、同年八月、朔太郎を中心に前橋で若き歌人や詩人らが集まって創刊した同人誌。「二咏」の「そうぞく」はママ(ここは「裝束」であるから正しくは「さうぞく」)、「三咏」の太字「いえす」は底本では傍点「ヽ」、「四咏」の「はぢめ」もママ。【二〇二二年二月二七日、一部の誤電子化・表記不全を修正した。】]