『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(31)
畫(ゑ)の島の晴雪(せいせつ) 安脩(あんしう)
神山 高く泛び 海溟 孤なり
登りて眺むるに 乾坤 書畫に似たり
萬里の潮風 杖履(ぢやうり)を吹き
千巖(せんがん)の氷雪 肌膚に映ず
瑤林(えうりん)瓊樹(けいじゆ) 花 晶瑩(しやうえい)し
金闕(きんけつ)銀宮(ぎんぐう) 影 有る無し
夕べに向ひて 忽ち聽く 仙樂の起こるを
槎(いかだ)に乘りて 直ちに訝る 蓬壺に到らんかと
雪後の晴天の江の島という比較的珍しい景観を詠む。私も嘗て大豪雪の翌日に無人の江の島を友と彷徨した忘れ難い思い出があるだけに、この詩の感懐は頗る分かると言っておきたい。
「瑤林瓊樹」「瑤」「瓊」孰れも美しい宝玉で、美しい樹林を指す。
「晶瑩」「晶」はきらきらと輝くこと、「瑩」は訓で「瑩(やう)ず(ようず)」と読み、宝玉などを貝で磨いて光沢を出すことをいうから、ここは凍(こご)った雪を持って花が美しく輝いているという意味であろう。
「闕」本来は古代中国の宮殿・祠廟・陵墓などの門前の両脇に、張り出した形で左右対称に設けられた望楼を言った。中間部分が何もない(「闕」は「欠」で欠けるの意)ことに基づく。ここは単に楼台の意。
「槎」仙人が仙界との行き来に常用するという筏。]
« 『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(30) | トップページ | 『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(32) »