明恵上人夢記 29
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一、同卅日の夜、夢に云はく、一人の女房有り。鉢に白粥を盛り、白芥子(びやくけし)を和合して、箸を以て之を挾み取り、成辨をして之を含み之を食はしむと云々。其の以前に、幽野(いうや)に詣でし一事、在田の諸人、成辨を待つと云々。
[やぶちゃん注:「同卅日」建永元(一二〇六)年五月三十日。同年同月は確かに大の月であることを確認した。
「白芥子」双子葉植物綱フウチョウソウ目アブラナ科シロガラシ
Sinapis alba の成熟種子を乾燥したもので漢方の生薬としては「ハクガイシ」と呼ぶ。漢方では他のカラシ種子と同様に健胃・去痰・鎮咳の漢方薬として用いられる。
「幽野」底本の注に『「熊野」の意か』とある。「熊」の音は「ユウ」で近似はする。訳は取り敢えず熊野で採った。
「在田」在田郡。前注参照。]
■やぶちゃん現代語訳
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一、同三十日の夜、見た夢。
「一人の女房がいる。鉢に白粥(しろがゆ)を盛り、それに白芥子(びゃくけし)を和合して、箸を以ってその小さな白芥子を器用に一粒ずつ挟み取っては、これを口に含んでは私にその粥に漬かった暖かな小さな白芥子を口移しに食べさせるのであった。……その夢の前に、私が熊野に詣でるという別な夢があったが、その夢では故郷在田郡(ざいたごおり)の人々が、熊野で私を今か今かと待ち構えておらるるという夢であった。……
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