『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(18)
和高子式遊畫島觀濤之作 秋儀
海上巍々天女臺。
登臨此日壯遊哉。
潮驕海關千鯨吼。
勢捲銀山萬馬來。
暫爾扶搖生羽翰。
居然咫尺問蓬萊。
篇成七發飛揚劇。
君自當年枚叔才。
[やぶちゃん注:「秋儀」不詳。識者の御教授を乞う。
高子式の畫(ゑ)の島に遊びたるをりの「觀濤」てふ作に和す 秋儀
海上 巍々(ぎぎ)たり 天女臺
登臨す 此の日や 壯遊
潮は海關に驕(けう)して 千鯨の吼(く)
勢は銀山を捲きて 萬馬の來(らい)
暫爾(ざんじ)の扶搖(ふえう) 羽翰(うかん)を生じ
居然(きよぜん)たる咫尺(しせき) 蓬萊を問ふ
篇 成る 七發 飛揚の劇
君 自づから當年 枚叔(ばいしゆく)の才
「高子式」不詳。
「壯遊」胸に壮志を抱いた壮士の旅。
「銀山」三角波のことか。
「暫爾」暫しの間。「爾」は状態を示す助字であろう。
「扶搖」は伝説の巨鳥鵬が翼をはばたいた時に起こるつむじ風。旋風。「荘子」内篇の「逍遙遊第一」の著名な冒頭に基づく。
「羽翰」鳥の羽であるが、詩を賦すための筆も暗示するか。
「居然」凝っとして動かぬさま。
「咫尺」非常に短い時間を指すが、これには貴人の前近くに出て拝謁することの謂いがあるのでそれ(ここでは仙女仙人の前)をも利かせるか。
「七發」は前掲の名詩人枚乗(枚叔)の最も有名な「文選」に載る美文。高子式の江の島での「觀濤」という詩をそれに喩えたものであろう。
「飛揚の劇」感性の、自在に天空を舞うような鷹揚なる力強さや雄大さを言うか。]
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