日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十章 大森に於る古代の陶器と貝塚 33 道路工事点描1
日曜日の午後にはチャプリン教授と二人で、いろいろな町を何マイルも歩いたが、その間に、しよっ中、何かしら新しい物に出喰わした。ある場所では一人の男が、螇蚚(ばった)を食料品として売っていた。螇蚚は煮たか焙ったかしてあった。私は一匹喰って見たが、乾燥した小海老みたいな味がして、非常に美味いと思った。螇蚚は我国にいる普通の螇蚚と全く同一に見えた。我国でだって、喰えぬという理由は更に無い。ある場所では土方が道路を修繕していたが、塵や石を運搬するのに、面白いものを使用していた。大きな、粗末な、四角い形をした筵の四隅から環状の鉉(つる)が出ているのを地面におき、これに図285の如くショベルで塵挨をすくい込み、いい加減たまると環に棒をさし込み、筵をハンモックのようにぶら下げて、二人の男が棒を肩でかついで行く。手押車という物は日本には無いが、この装置がいい代用品になっている。私は労働者達が道路に土盛りしたり、一定の勾配にしたりする時、砂利を量る計器を使うことに気がついた。これは大きな板を釘で打ちつけた箱で、労働者達は上述したようにして持って来た鬆土(あらつち)を、この箱の中にぶちまけ、前もって契約した道路材料をはかり、そして代価を訴求する。
[やぶちゃん注:「チャプリン教授」土木工学教授ウィンフィールド・チャップリン。既注。道路工事を飽かず眺めるにはうってつけのパートナーである。
「螇蚚」原文“grasshoppers”。この英語は広くバッタ類やキリギリスを指すが、ここは無論、直翅(バッタ)目バッタ亜目イナゴ科 Catantopidae に属するイナゴ類(イナゴ亜科 Oxyinae・ツチイナゴ亜科 Cyrtacanthacridinae・フキバッタ亜科 Melanoplinae に別れ、日本では六種が確認されている)である。英語では“rice grasshopper”とも言う。
「大きな、粗末な、四角い形をした筵の四隅から環状の鉉(つる)が出ているの」畚(もっこ)である。
「大きな板を釘で打ちつけた箱」混合用の舟(フネ)に移す前に用いる計量用の枡(マス)かと思われるが、何という呼称なのか、不勉強にして知らない。識者の御教授を乞う。
「鬆土(あらつち)」軽鬆土(けいしょうど)。さらさらした火山灰の土。「鬆」という字は元は髪の乱れているさまで、荒い・緩い・締まりがないという意。なお、「鬆」の国訓に与えられている「す」の意は「豆腐にすが入った」の「す」で、均質であるべきものの中に生じた空間を指す。]