『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(20)
和子遷先生題江島石壁之作 越智正珪〔字君瑞 號雲夢〕
碧海祠檀捧玉盤。
金龜山上夏雲寒。
知君試賦觀濤色。
不讓枚乘八月看。
[やぶちゃん注:越智正珪(貞享三(一六八六)年~延享三(一七四六)年)は江戸中期の医師で儒者。曲直瀬(まなせ)平庵の子で、父の跡を継ぎ、養安院と称して幕府医官として出仕し、後に法眼となった。荻生徂徠に古文辞を学んだ。別号に神門叟、雪翁。著作に「懐仙楼集」「神門余筆」など(講談社「日本人名大辞典」に拠る)。
子遷先生の「江島石壁」と題するの作に和す 越智正珪〔字は君瑞、號は雲夢。〕
碧海の祠檀(しだん) 玉盤を捧ぐ
金龜山上 夏雲(かうん)寒(さび)し
知る君 試みに賦す 觀濤(かんたう)の色(しよく)
枚乘(ばいじよう)に讓らず 八月の看(かん)
「和子遷先生題江島石壁之作」の「子遷先生」は服部南郭の号で、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーの「相模國風土記」の「藝文部」を見ると、この詩の直前に「題江島石壁」と題する服部南郭の詩が載る。以下に示す(例によって訓読は私の勝手なものである)。
題江島石壁
風濤石岸鬪鳴雷。
直撼樓臺萬犬廻。
被髮釣鼈滄海客。
三山到處蹴波開。
江の島石壁に題す
風濤の石岸 鳴雷と鬪(あらそ)ふ
直撼(ちよくかん)す 樓臺 萬犬(ばんけん)の廻(くわい)
被髮(ひはつ)して 鼈(べつ)を釣る 滄海の客
三山 到る處 波を蹴つて開く
承句は波濤旋風の廻る音を無数の犬の吠え声に喩えたものか。「被髮」はざんばら髮で、映像は神仙のイメージである。
「枚乘」前漢の詩人。既注。
「看」は見守る、観察するの謂いで、詩に十全に詠じたことを言うか。]
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