『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(23)
宿江島妙音閣 餘承裕〔字子綽 號熊耳〕
雲晴海嶠宿岩嶢。
月朗龍宮照寂寥。
只有梵音驚客夢。
通宵不寐坐聞潮。
[やぶちゃん注:作者は江戸中期の漢学者大内熊耳(おおうちようじ 元禄一〇(一六九七)年~安永五(一七七六)年)。陸奥国(現在の福島県)三春の人。熊耳は号で、承裕は名、子綽は字、通称は忠太夫。百済王族の後裔の出と伝えることから余氏を名乗った(父弥五右衛門は熊耳村の村長)。十七歳で江戸に出、秋元澹園に師事、後に上方を経て九州に至り、長崎に遊学、ここで中国明代古文辞学の名著「李滄溟集」を見、自らの文章を磨いた。長崎に居ること十年余の後、江戸に戻って肥前(現在の佐賀県)唐津藩の儒員となった。文名高く、当時の代表的文人として重きをなした。書家としても知られたという。著作に「熊耳先生文集」(「朝日日本歴史人物事典」に拠る)。
江の島妙音閣に宿す 餘 承裕〔字は子綽、號は熊耳。〕
雲 晴れて 海嶠(かいけう)は岩嶢(がんげう)に宿す
月 朗(ほがら)にして 龍宮が寂寥を照らす
只だ有る 梵音 驚客(きやうかく)の夢
通宵(つうせう) 寐ねず 坐して潮を聞く
「海嶠」海中に聳え立つ島。
「岩嶢」高く険しい岩山。彼が宿泊した可能性がある岩本楼に引っかけた謂いかも知れない。]
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