日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十章 大森に於る古代の陶器と貝塚 32 薪について
今日材木市場へ行って見て、薪を大きな汽罐にも、またストーヴにも使用することを知った。薪は我国に於るようにコードや、或は大きなかたまりで売るのではなく、六本ずつの小さな束に縛りつける。私は薪のかかる小さな束を、ウンと積み上げたのを見た。これ等は一ドルについて二十束の値で売られる。薪の質はよく、我国でストーヴに使用する薪の二倍位の長さに切ってあった。
[やぶちゃん注:「大きな汽罐」原文“large boilers”。今や「ボイラー」のままの方がすんなり読めるほどに日本語はアメリカナイズされてしまったことをしみじみ感じる。
「コード」原文“the cord”。底本では直下に石川氏の『〔木材の立方積を測る単位〕』という割注が入る。英語圏に於いて燃焼用に切った木材量の体積単位を示すもの。4×4×8フィート(≒122×122×244センチメートル)を占める未製材の木材量を1コードとするもので体積約80立方フィート(約227立方メートル)、重量は1~1・2トンに達するから日本人の感覚から言うなら一単位が馬鹿でかいと言えよう。
「これ等は一ドルについて二十束の値で売られる」当時の価格換算は既にしばしば行ってきたが、再度示すなら、明冶十年当時の米価(卸売価格)で60キログラムで1円34銭であるから、米価換算だと当時の 1円は凡そ10000円強となり、当時の良質の一般的な手頃な長さの薪一本は凡そ8厘(現在の80円相当)であったということになる。]
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