アトム第一話に2コマだけ大人のアトムの顔が現われること(シナリオ化再現)
……ネタバレになるので以下に至るストーリーは述べずにおく。それほどに端緒から意外性をもって構成されている。従って下の採録シナリオも少しアトムを知っているが原話を知らない方には〈非常に奇異に〉感じられる部分があるはずである。そういう方は、是が非でも、手塚先生の当該作アトム誕生の第一作を、是非お読みに戴きたく存ずる……
*
(ケン一の「ロボットに誠意なんかないだろう!」という言葉にアトムが差し出したアトム自身の首が、アトムの心にうたれた宇宙移民団のケン一から返されて来る。)
【最終コマより2コマ前】
(タマオが箱を覗くと、もう一つの首が入っていて、それを箱から取り出そうとするタマオ。その右手で自分の首をセットしつつ、もう一つの首を見ているアトム。タマオの持つその首の総角(あげまき)型の髪はアトムであるが、右斜め下からのアオリで描かれた顔は鼻が尖った凛々しい大人のそれである。なお、首切断面は箱で隠されている。私はこういうところに手塚先生の優しさを感ずる。)
(タマオ)
おや? もうひとつ
へんなおとなの
顔が
はいってら
【最終コマより1コマ前】
(背景に移民団の宇宙船に向かって手を振るなどして見上げて見送る人々。遠景に四人(子供一人)、近景のアトムとタマオの後ろの建物屋上(科学省と思われる)のサーチライトの前一人。それは以下の手紙の吹き出しで眼から上の部分しか見えないが『ケン一』である。手前に手紙を開いてそれを音読するタマオ、その右手に自分の大人の顔の首を持ったアトム。アトムはその手紙の朗読を聴きつつ、大人の自分の首を眺めつつ、しきりに涙を迸らせている。)
(ケン一の手紙)
アトムくん
きみの顔を参考に
して大人の顔をつく
りました
きみもいつまでも少年
ではいけない 今度会
ときはおとな同士で
会おう さようなら
……因みに……最終コマでは、宇宙移民団の宇宙船(七機)が上昇する背景の手前で、近景右に手紙を右手で振り上げて見送るタマオと右下角に方から上の笑顔で見上げるアトムの左横顔。
(タマオ)
ぼくも
今度は
おとなに
なってるよ!
さよなら…
*
以上、初出誌は昭和27(1952)年3月号「少年」(光文社刊)。採録シナリオの底本としたのは講談社手塚治虫漫画全集221「鉄腕アトム①」。なお、当該作品(昭和26年4月からの全12回連載)の題は「鉄腕アトム」でも「鉄腕アトム アトム大使の巻」(底本目次ではかく標記されてある)でもなく、
アトム大使
という表題であった。最終回は副題に、「科学冒険マンガ」とあるが、この副題は第1回にはなく、第2回では「科学冒険漫画」、第3回と第4回では「長篇科学漫画」とした上で「アトム大使」の上に英語で「CAPTAIN ATOM」と書かれてある(第5回以降はこの英文は消える。また第7回では「長篇」の表記が「長編」となる)。第10回で再び副題が「科学冒険漫画」に戻るが、第11回では「冒険まんが」とだけで、最初に示した通り、最終回は
科学冒険マンガ アトム大使
である。
*
……アトム……君は無垢の少年の心のまま……僕らの前から消えていった……僕は大人の君を知らないよ……僕は実はね……今のこの世を見ているとね……実はケンちゃんの言葉はハズレだったんだんだ、と……しみじみ思うんだよ…………
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