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2014/01/29

生物學講話 丘淺次郎 第十章 卵と精蟲 二 原始動物の接合(4) ツリガネムシ及びマラリア原虫の接合 /二 原始動物の接合~了

Turiganemusisetugou
[「つりがね蟲」の普通の一疋]

[止まつて待つ大きな一疋の處へ群體から離れて水中を游ぎ來つた小さな一疋が、將に接合せんとする狀] 

「ざうり蟲」でも夜光蟲でも、接合する二疋の蟲は外見上全く同樣で少しも區別がないが、原始動物の中には接合する二疋の形に明な相違の見えるものがある。池や沼の水草に澤山に附著して居る「つりがね蟲」はその一例であるが、この蟲は夜光蟲や「ざうり蟲」が遊離して居るのとは違ひ、長い柄を以て固著して居るから、恰も根の生えた植物の如くで、勝手にどこへでも動いて行くことは出來ぬ。始は一疋の蟲も分裂によつて段々殖えるが、皆同じ處に留まり、柄を以て互に繫がつて居るから、終には樹の枝のやうな形の群體を造るに至る。通常水草などに著いて居るのはかやうな姿のものである。所がこの蟲もときどき接合する必要があるが、それには系統の異なつた二疋の蟲が出遇はねばならず、そのためには必ず運動を要する。二疋ともに動くか、または一疋だけが動くか、いづれにしても全く動かずに居ては二疋が相接觸する機會はない。さて實際には「つりがね蟲」は如何にして接合するかといふに、その頃になると、分裂生殖よつて二種類の個體が出來、一種は身體が大きくて内に滋養分の顆粒を含み、群體の枝から離れずに居るが、他の一種は體が小さく有力な纖毛を具へ、自分の群體から離れて水中へ游ぎ出し、他の群體に達してそこに相手を求める。そして接合するときには小さい方の蟲は大きな方の體内に潜り込み、これと融合して全く一個の細胞となつてしまふ。かくの如く、「つりがね蟲」では接合する二疋の蟲が形も擧動も明に違ふが、その相違は高等動物の生殖細胞なる卵と精蟲との相違と全く同性質のもの故、大きな方を雌と名づけ小さな方を雄と名づけても決して無理ではなからう。接合を目的として二疋の虫が互に相慕ひ相求めることは、原始動物に普通に見る所であるが、この二疋の間に雌雄の相違の明に現れる場合は、「つりがね虫」の外にもなほ澤山ある。人間の血液内に寄生してマラリヤ病を起す微細な原始動物なども、普通には分裂によつて蕃殖する。患者が隔日に発熱するのは、この虫の分裂生殖が毎回四十八時間を要するからである。しかし蚊が患者の血液を吸ふと、病原蟲は蚊の體内で漸々変形し、大小二種の蟲が出來て互に接合するが、その形狀の相違は「つりがね蟲」などに於けるよりも遙に著しく、雌の方は球形で誰が見ても卵細胞と思はれ、雄の方は小さな頭から細長い尾が生えて、普通の精蟲と少しも違はぬ。

 

Mararasetugou
[(右)マラリヤ病原蟲が人の赤血球に寄生してゐる所]

[(左)同蟲の雄と雌との接合する所] 

[やぶちゃん注:「つりがね蟲」クロムアルベオラータ Chromalveolata 界アルベオラータ Alveolata 亜界繊毛虫門貧膜口綱周毛亜綱ツリガネムシ目ツリガネムシ科ツリガネムシ Vorticella nebulifera を代表種とするが、広義にはこの種が属するツリガネムシ科或いはツリガネムシ目に属する生物全体を示す。参照したウィキの「ツリガネムシ」によれば、『淡水に生息する単細胞生物で』、『主として用水路や水田、池など、止水に生息し、水中の水草や枯れ枝などに多数が群れをなして固着している。体は円錐形で、底面に当たる位置の周囲には繊毛列があり、これにより水流を作り、その端にある細胞口へ微粒子などを流しこんで摂取する。円錐の頂点に当たる部分からは長い柄が伸びて、基質上に固着する。何か刺激を受けると、細胞の繊毛部分は袋の口を縛るような形で縮み、同時に長い柄は螺旋状に収縮する。収縮は瞬間的に起こり、そっとしておけばゆっくりと体を延ばす』。『近縁の種には枝分かれした柄に多数の細胞体が付いて、群体を作るものや、ミジンコの体に固着するものなど、様々なものがある』とある。ハリガネムシの生態及び分裂動画は「NHK for School」の ツリガネムシ 不思議な水中生活が非常によい。このツリガネムシの卵子と精子に見紛う二体の異形という特異な接合様態は、ゾウリムシなどの接合が同形接合(isogamous conjugation)と呼ばれるのに対し、まさに異形接合(anisogamous conjugation)と呼ばれている。

「マラリヤ病を起す微細な原始動物」アルベオラータ Alveolata 亜界アピコンプレクサ Apicomplexa 門胞子虫綱コクシジウム目マラリア原虫 Plasmodium spp.。熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症で高熱や頭痛・吐き気などの症状を呈し、悪性の場合は脳マラリアによる意識障害や腎不全などを起こして死亡するマラリア(麻剌利亜。「悪い空気」という意味の古いイタリア語:mal aria”を語源とするらしい。ドイツ語:Malaria・英語:malaria)の病原体。本邦に於いて平清盛の死因として知られる「瘧(おこり)」とは、概ねこのマラリアを指していると考えてよい。以下、参照したウィキマラリアより引用する。『ハマダラカ(Anopheles spp.)によって媒介され』、近年、『微細構造および分子系統解析からアルベオラータ』に分類されるようになったが、ここには既に本文にも登場してきた渦鞭毛藻類が含まれており、『近年マラリア原虫からも葉緑体の痕跡が発見された。そのため、その全てが寄生生物であるアピコンプレクサ類も祖先は渦鞭毛藻類と同じ光合成生物であったと考えられている。ヒトの病原体となるものはながらく熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)の4種類であったが、近年サルマラリア原虫(P. knowlesi)が5種目として大きな注目を集めている。サルマラリアは顕微鏡検査では P. vivaxと区別が難しいため従来ほとんど報告例はなかったが、近年の検査技術の発達によりPCR』(ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)。DNAを増幅させる検査法)『で確実な判断ができるようになったため、多数症例が報告されるようになった。マレーシア サラワク州では今日のマラリア症例の70%がサルマラリアによるものであることも報告されている』。『タイでも報告例がでて』おり、『熱帯熱マラリア原虫によるマラリアは症状が重いことで知られるが、サルマラリアは24時間以下の周期で急激に原虫が増加し、他のマラリアとことなりほぼすべての赤血球に侵入するため症状は重篤になることが多く』、『これらの発見から当該地域でのマラリアコントロールは新たな手法による対応を迫られている』。『マラリア原虫は脊椎動物で無性生殖を、昆虫で有性生殖を行う。したがって、ヒトは終宿主ではなく中間宿主である。ハマダラカで有性生殖を行なって増殖した原虫は、スポロゾイト(胞子が殻の中で分裂して外に出たもの)として唾液腺に集まる性質を持つ。このため、この蚊に吸血される際に蚊の唾液と一緒に大量の原虫が体内に送り込まれることになる。血液中に入ると45分程度で肝細胞に取り付く。肝細胞中で1-3週間かけて成熟増殖し、分裂小体(メロゾイト)が数千個になった段階で肝細胞を破壊し赤血球に侵入する。赤血球内で8-32個に分裂すると赤血球を破壊して血液中に出る。分裂小体は新たな赤血球に侵入しこのサイクルを繰り返す』。『マラリアを発症すると、40度近くの激しい高熱に襲われるが、比較的短時間で熱は下がる。しかし、三日熱マラリアの場合48時間おきに、四日熱マラリアの場合72時間おきに、繰り返し激しい高熱に襲われることになる(これが三日熱、四日熱と呼ばれる所以である)。卵形マラリアは三日熱マラリアとほぼ同じで50時間おきに発熱する。熱帯熱マラリアの場合には周期性は薄い』。『熱帯熱マラリア以外で見られる周期性は原虫が赤血球内で発育する時間が関係しており、たとえば三日熱マラリアでは48時間ごとに原虫が血中に出るときに赤血球を破壊するため、それと同時に発熱が起こる。熱帯熱マラリアに周期性がないのは赤血球内での発育の同調性が良くないためである』。『いずれの場合も、一旦熱が下がることから油断しやすいが、すぐに治療を始めないとどんどん重篤な状態に陥ってしまう。一般的には、3度目の高熱を発症した時には大変危険な状態にあるといわれている』。『放置した場合、熱帯熱マラリア以外は慢性化する。慢性化すると発熱の間隔が延び、血中の原虫は減少する』。『三日熱マラリアと卵形マラリアは一部の原虫が肝細胞内で休眠型となり、長期間潜伏する事がある。この原虫は何らかの原因で分裂を再開し、再発の原因となる。四日熱マラリア原虫の成熟体は、血液中に数か月~数年間潜伏し発症させることがある』。『マラリア原虫へのワクチンはないが、抗マラリア剤はいくつかある。マラリアの治療薬としてはキニーネが知られている。他にはクロロキン、メフロキン、ファンシダール、プリマキン等がある。いずれも強い副作用が現れることがあり注意が必要。クロロキンは他の薬剤よりは副作用が少ないため、予防薬や治療の際最初に試す薬として使われることが多いが、クロロキンに耐性を示す原虫も存在する。通常は熱帯熱マラリア以外ではクロロキンとプリマキンを投与し、熱帯熱マラリアでは感染したと思われる地域での耐性マラリア多寡に基づいて治療を決定する。近年では、漢方薬を由来としたチンハオス系薬剤(アルテミシニン)が副作用、薬剤耐性が少ないとされ、マラリア治療の第一選択薬として広く使用されるようになった。これによりこれまで制圧が困難であった地域でも大きな成果をあげている一方、アジア、アフリカの一部ではすでに薬剤耐性が報告されるようになってきた。2010年以後、アルテミシニンはグローバルファンドの援助によって東南アジアのマラリア治療薬としてインドネシアの国境付近のような僻地であっても処方されるようになってきている』。『近年は殺虫剤に耐性を持つハマダラカや、薬剤に耐性のあるマラリア原虫が現れていることが問題になっている。また地球温暖化による亜熱帯域の拡大とともにマラリアの分布域が広がることも指摘されている。流行地で生まれ育ち、度々マラリアに罹患し免疫を獲得したヒトでは、発熱などの症状がほとんど診られないこともあるが、免疫が無ければ発症する』とある。……長々と引用したのには私の個人的な理由がある。友人マラリアっていからである。海外に行く機会の多い、そして近年ハマダラカの生息が東京で確認されている昨今、マラリアは決して対岸の火事ではないことを心に刻んでおく必要があるからである。] 

 以上述べた如き單細胞生物では、いづれも種族を永く繼續させるためには、ときどき系統を異にする蟲が二匹づつ接合して體質を相混ずることが必要であるが、二疋の蟲が出遇ふには運動をせねばならず、接合後速に分裂するには豫め滋養分を貯へて置かねばならぬ。しかるに、活潑に游ぐには成るべく身輕なことが便利であり、滋養分を貯へれば身體が重くなつて運動が妨げられる。それ故この二つの必要條件は、相接合すべき二疋で一方づつ分膽し、長い年月の間に各々それに適するやうに身體が變化したるものと推察せられるが、かく想像すると全く實際に見る所と一致する。即ち一方は體が次第に小さくなり、運動の裝置のみが發達して活發な雄となり、一方は滋養分を溜めて體が段段大きくなり、終に重い動かぬ雌となつたと考へねばならぬ。

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