つばねの 穗
ふるへるのか
そんなに 白つぽく、さ
これは
つばねの ほうけた 穗
ほうけた 穗なのかい
わたしぢや なかつたのか、え
[やぶちゃん注:第一連二行目の「白つぽく、さ」の読点と次の間投助詞「さ」との間は今までのような有意な間隙がなく、半角も与えずに繋がっている感じで特異である。単なる植字上のミスの可能性が高いが、原本を視認した際、明らかに際立って目立つので特に指示しておく。ここで述べておくと、底本全体の文字組は、
実は字間幅が普通より著しく広い(行間もやや広い)。それをも再現するとなると、本詩の場合は以下のような感じになる(あくまで感じであるが、なるべく近づけてみた。少々やり疲れたので再現を諦めたが題名のポイントも本文に比して有意に大きい)。
つばねの 穗
ふ る へ る の か
そ ん な に 白つぽく、さ
こ れ は
つばねの ほ う け た 穗
ほ う け た 穗 な の か い
わ た し ぢ や な か つ た の か、 え
これは恰も聖書風の本詩集初版を手にした際に最も際立って感じられる視覚的奇異性(これは特異性というよりは「奇異」という語が相応しい)で、これこそが
実は本詩集の最大の特長と言ってよいのであるが、ブログ版ではそこまで再現するのが煩瑣なので試みていない(この短い記事だけでも注記記載も含め、タグや不具合を補正するうち、たっぷり一時間は経過しているのである)。しかし、この字幅・行幅のサイト版を作る際にはそれも再現してみたい欲求に駈られてはいる。それほどに麻酔のような透明な白さが、この詩集のそれぞれのページの字背には漂っている、と言ってよいのである。
「つばねの穗」確認出来ないが、この「つばね」とは
茅花、単子葉植物綱イネ目イネ科チガヤ
Imperata cylindrical の方言ではあるまいか。以下、
ウィキの「チガヤ」によれば、チガヤは初夏に細長い円柱形のそれを出穂する。穂は葉よりも高く伸び上がってほぼ真っ直ぐに立ち上がり、分枝せず、真っ白の綿毛に包まれているためによく目立つ。『花穂は白い綿毛に包まれるが、この綿毛は小穂の基部から生じるものである。小穂は花序の主軸から伸びる短い柄の上に、2個ずつつく。長い柄のものと、短い柄のものとが対になっていて、それらが互いに寄り沿うようになっている』。小穂は長さが4ミリメートルほどで、『細い披針形をしている。小花は1個だけで、これは本来は2個であったものと考えられるが、第1小花はなく、その鱗片もかなり退化している。柱頭は細長く、紫に染まっていて、綿毛の間から伸び出すのでよく目立つ』。種子はこの綿毛に風を受けて遠くまで飛ぶ。本属は「世界最強の雑草」と呼ばれる如く、本邦でも古えより厄介な雑草であると同時にまた様々な利用も行われてきた。古名は「チ(茅)」で、花穂は「チバナ」または「ツバナ」とも呼ばれ、「古事記」や「万葉集」にもその名が出る。『この植物はサトウキビとも近縁で、植物体に糖分を蓄える性質がある。外に顔を出す前の若い穂は、噛むと甘く、子供がおやつ代わりに噛んでいた。地下茎の新芽も食用となったことがある』。「万葉集」にも『穂を噛む記述がある』。『茎葉は乾燥させて屋根を葺くのに使い、また成熟した穂を火口(ほくち)に使った。乾燥した茎葉を梱包材とした例もある』。『また、花穂を乾燥させたものは強壮剤、根茎は茅根(ぼうこん)と呼ばれて利尿剤にも使われる』。『他に、ちまき(粽)は現在ではササの葉などに包むのが普通であるが、本来はチガヤに巻いた「茅巻き」で、それが名の由来であるとの説がある』とある。]
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