渚 萩原朔太郎
渚
女はかなしくよりそひて
わが手をみつむ
夕浪のひき去りゆく渚に座り
ほの白く光りて殘る渚を指さし
われ等なにごとか語らむと思ふなり
愛なくしてときのすぎゆくわびしさは
この言葉なきかたらひのひまに。
[やぶちゃん注:底本筑摩版全集第三巻所収の『草稿詩篇「原稿散逸詩篇」』より。これは現在は詩稿は残っていないが、過去に出版された小学館版及び創元社版全集で活字化されているもの、及び著者書簡中に記された詩稿などを収めたものであるが、この詩の出所がそのどこであるかは不思議なことに明示されていない。]
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