耳嚢 巻之八 肴の尖不立呪文の事
肴の尖不立呪文の事
或(人の)語りけるは、魚肴(うをさかな)に不限(かぎらず)、尖(とげ)の不立(たたず)、またたち候ても拔(ぬく)る呪(まじなひ)成(なり)とて、トウキセウコン萬物一體、かく唱ふれば奇驗有(あり)と傳授なしけり。
□やぶちゃん注
○前項連関:なし。呪(まじな)いシリーズ。そういゃ、私は小学校二年の夏休み、客の残して行った鮨の海老の尻尾を齧って飲み込んだ途端、尻尾の棘が美事、咽頭部にブッスリと刺さって、いっかな、抜けず、翌日、母に連れられて歯医者さんで抜いて貰ったのを思い出した。……何故、そんなことを覚えてるかって? だってその術式を僕はしっかり絵日記に記していて、今もそれがこの書斎にあるんだもん。
・「肴の尖不立呪文の事」は「さかなのとげたたざるじゆもんのこと」と読む。
・「魚肴」「魚」が狭義の「さかな」、魚類を指すのに対し、後者の「肴」は酒や主食である飯に添えるところの「さかな」、魚肉・鶏肉・獣肉及び貝や海鼠などの魚以外の魚介類・野菜根菜類を広く指す。
・「(人の)」の右には底本では尊經閣本による追補である旨の傍注がある。
・「トウキセウコン萬物一體」「トウキセウコン」は不詳。それらしい漢字が浮かばぬことはないが、ここはカタカナで真言紛いの雰囲気を添えたものか。
■やぶちゃん現代語訳
魚の棘が立たぬようにする呪文の事
或る人が語ったことには、
「魚(うお)や肴(さかな)に限らず、食うて棘が咽喉(のんど)なんどに立たぬようにする、また、立った場合でも容易に抜くる呪(まじな)いであると称して教え呉れた呪文、これあり。
トウキセウコン萬物一體
と唱うれば、これ、絶妙なる効験、これ、御座る。」
とて、伝授なし呉れた。
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