鬼城句集 冬之部 動物 冬蜂
動物
冬蜂 冬蜂の死にどころなく歩きけり
[やぶちゃん注:鬼城の真骨頂であり、眼目であり、連続する生死の実相を漸近線で描いた名吟である。大正四(一九一五)年、鬼城満五十歳の折りの作。本書の「序」で鬼城を境涯俳人として名指した大須賀乙字とその共同正犯高浜虚子は(無論、「序」は虚子、乙字の順で、「境涯」という語を確信犯としてバリバリに用いたのは乙字であるからこれを主犯と言い、やはり確信犯で鬼城の疾患と貧困と数奇不遇な半生を余すところなく語り切った点で共同正犯と私は表現するものである)そのの「序」の中で、この句の冬蜂は『最う運命が決まつてゐて、だんだん押寄せて來る寒さに抵抗し得ないで遲かれ速かれ死ぬるのである。けれどもさて何所で死なうといふ所もなく、仕方がなしに地上なり緣ばななりをよろよろと只歩いてゐるといふのである。人間社會でもこれに似寄つたものは澤山ある。否人間其物が皆此冬蜂の如きものであるとも言ひ得るのである』などと、虚子らしい如何にもな、いやったらしさ、で評釈している。こういうのを、ない方がなんぼかマシ、な評言と云うのである(私の境涯俳句・俳人という語への生理的嫌悪感については「イコンとしての杖――富田木歩偶感――藪野直史」をお読み戴ければ幸いである)。]