栂尾明恵上人伝記 70
同四〔壬辰〕正月上旬の比より所勞次第重く成りて憑(たのみ)なき體(てい)なり。病中に常に結跏趺坐(けつかふざ)して入定(にふぢやう)、其の間彌勒の帳(とばり)の前に安置する處の土砂、忽ちに紺靑(こんじやう)色の如くにして、光焰(くわうえん)相具して其の室に散在せるを見る。入定の隙には法門を説いて、諸衆を誠め、沒後(もつご)の行事を定め給ふ。
[やぶちゃん注:「同四〔壬辰〕正月」寛喜四(一二三二)年一月。この年は四月二日に貞永元年に改元されている。この一月十九日に明恵は示寂する。
「入定」は広義の真言密教に於ける究極的修行の呼称で、一切の妄想を捨て去り、弥勒出世の時まで衆生救済を唯一の使命とする絶対安定の精神状態に入ることを指すが、ここでは最早、原義としての生死の境を超越して悟りを得ることと同義的なニュアンスである。]
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