山頂 萩原朔太郎
山頂
かなしければぞ、
眺め一時にひらかれ、あがつまの山なみ靑く、
いただきは額(ひたひ)に光る。
ああ尾ばな藤ばかますでに色あせ、
手にも料紙はおもたくさげられ、
夏はやおとろへ、
山頂(いただき)風に光る。
――一九一四、八、吾妻ニテ――
[やぶちゃん注:『銀磬』第四年第一号(大正四(一九一五)年一月刊)に掲載された。同誌は詩誌と思われるが不詳。クレジットの同年八月十三日まで朔太郎(満二十八歳)は群馬県吾妻郡中之条町四万温泉の積善館に避暑に赴いている。
この前年辺りに永遠のエレナ(馬場ナカ)との悲恋が始まっている。この詩には、その陰鬱な影が落ちているように私には思われ、またそのイマージュは後の「月に吠える」の「淋しい人格」後半部分の淵源のようにも思えるのである。]