橋本多佳子句集「海燕」 昭和十二年 向日葵
向日葵
向日葵に天よりあつき光來る
向日葵の萼たくましく日に向へり
向日葵は火照(ほて)りはげしく昏れてゐる
向日葵に夜の髮垂りてしづくせる
[やぶちゃん注:この四句、凝っと見ていると、何かドキッとする。それは詠唱する主体たる観察者の姿が全く消失して描写客体即主体即多佳子と読めるように、これらは確信犯で創られてあるからであると思う。……即ち――向日葵に――多佳子の身に「天よりあつき光」が「來る」のであり――多佳子の肉体の「萼」が「たくましく日に向」っているのであり――多佳子「は火照りはげしく」「昏れ」た宵闇の中にその肉身を佇立させ「てゐる」のであり――多佳子の「夜の」ほの白き身に、夜の闇たる「髮」が静かに「垂」れて来、そしてそのしっとりとした「しづく」が髪から落ちるからであろう……これはもうタルコフスキイではないか!……]