生物學講話 丘淺次郎 第十章 卵と精蟲 一 細胞(2) 細胞間質
[細胞間質の多いのを示す]
動物でも植物でもその身體には、柔い處や堅い處、濡れた處や乾いた處と種々の異なつた部分があるが、これは皆その部を成してゐる細胞の形狀・性質や集まり方に相違があるによる。例へば人間の身體にも乾いた表皮や濡れた粘膜、柔い筋肉や堅い骨などがあるが、それぞれその部分の細胞が違ふ。そして細胞は細長いものや扁たいもの、柔いものや堅いものが、雜然と一所に混じて居る如きことは決してなく、必ず同じやうな細胞ばかりで數多く集まつて居る。即ち扁平な細胞ならば多數集まつて層をなし、細長い細胞ならば多數竝んで束となり、乾いて堅い細胞は相集まつて爪などの如き乾いて堅い部分を造り、濡れて柔い細胞は頰の内面の如き濡れて柔い部分を造る。かやうに同種の細胞の數多く集まつたものを組織と名づける。細胞が組織を造るに當つては、細胞が互に直接に相觸れて集まることもあれば、また各細胞が或る物質を分泌し、細胞はその物質のために隔てられて相觸れずに集まつて居る場合もある。かやうな物質を細胞間質という。細胞間質によつて細胞が隔てられて居る有樣は、恰も煉瓦がモーターで隔てられて居る如くであるが、組織の種類によつては細胞間質が細胞よりも遙に分量の多いものもある。かやうな場合には細胞間質が堅ければ組織全體も堅く、細胞間質に彈力があれば組織全體にも彈力があることになる。骨の組織の堅いのは細胞間質が石灰を含んで堅いからであり、骨膜や腱の組織の強靭なのは細胞間質が纖維性で強いからである。兩方とも細胞自身は頗る柔い。
[やぶちゃん注:「モーター」目地塗りに用いる、セメントあるいは石灰と砂とを混ぜて水で練ったモルタル(mortar)のこと。ネイティブの発音は「モーター」の方が遙かに正確。]
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